【対談】OECD就学前・学校教育課長 小原ベルファリゆりさん x まちのおやこテーブル ヨーコ

大学時代の友人・小原ベルファリゆり氏は、経済協力開発機構(OECD)で7年にわたり就学前教育や学校教育の専門家として活躍。まちのおやこテーブルが取り組む乳幼児期の「やってみたい」を叶える大人や地域コミュニティづくりについて、これからの教育との関係からお話を伺いました。

ヨーコ:今日は専門家として話が聞けることを楽しみにしていました。就学前・学校教育担当ということは子どもの対象年齢は、0歳から18歳。とても広いですね。改めて、OECDではどのような仕事をしているか教えてください。

小原:OECDの役割は世界最大のシンクタンクとして、データや政策を分析し、メンバー国に対してエビデンス(根拠)に基づいて今後の方向性をアドバイスすることです。私は日本で国際学力調査として知られる「生徒の学習到達度調査(PISA)」を担当しており、世界中の15歳の生徒を対象に「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の3科目の学習到達度について国際比較調査を行っています。また、特定の国の教育政策や取り組みについてじっくり調査をすることもあります。さらに、これから生じるであろう課題を提示してOECDが議論を始めることで2030年あるいは2050年に向けて準備をするという仕事もしています。

ヨーコ:国際比較は学力以外にも行っていますか。

小原:もちろんです。国際比較はどうしても学力に注目されがちですが、「学ぶための能力」もとても大切です。他者と共に生きる力、相互尊重、グロースマインドセット*などが該当します。社会に関わり、物事や環境がより良いものになるよう力を発揮する考え方なので、OECDではSocial and Emotional skills(社会情動的スキル)と呼んでいます。
*自分の力は、経験や努力によって向上できるという思考パターン

ヨーコ:先行きが不透明で予測不可能なVUCA(ブーカ)時代と言われる中で、自ら努力しつつ他者と力を合わせて共に考えて何かを生み出したり、課題を解決する力が求められているんでしょうね。そのような社会情動的スキルもデータ化して国際比較できるのですか。

小原:OECDの役割上、エビデンスに基づいて比較することを重視していますのでその努力をしています。社会情動的スキルが重要という考えは各国共通で反対する人はいませんが、エビデンスを作るとなると簡単ではありません。定量的に測れない、倫理的にそのようなデータを取るべきではないなど様々な反対意見をもらうことは多いです。

5年前から取り組んでいることとして、問題解決能力があります。15歳以上の子どもに対して、コンピューターを疑似相手として設定して他者と協働して問題を解決する力を測るテストをして国際比較しました。人間相手ではないという批判を受けたので、「生徒とコンピューター」群、「生徒と生徒」群で比較したところ統計的に差がないという結果を得ました。

ヨーコ:そのような比較した結果があると説得力がありますね!

小原:協働的な問題解決能力のほかにも創造的問題解決能力の測定方法も開発しました。今取り組んでいるのは、デジタル環境の中で学ぶ力です。自ら目標を設定し計画を立てる、自ら課題を見つけ行動することに関わるデータを収集しています。ヨーコさんと以前話をした生徒エージェンシー*が大きく関わります。

*自分の人生や周りの世界に対してポジティブな影響を与えうる能力と意志を持っている前提で、変革を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力と定義される(2030年に向けた生徒エージェンシー)。

ヨーコ:国際比較の中で日本はどのような位置付けなのでしょうか。

小原:学力は総じて高いですが、デジタル環境の中での学習能力は課題といえます。前回のPISAで読解力の日本のランキングが下がった要因の一つは、デジタル環境での読解力を測ったことがあげられます。

ヨーコ:通常の読解力とどこが違うのですか。

小原:日本では教科書に線を引いて、音読するというやり方が読解力を高める方法として確立されていて、うまくいっていました。デジタルになると、与えられた教科書だけでなく関連するネット記事やニュースをインターネットで自ら探し、複数の意見を比較して考えるということが求められます。日本はネット環境が整備されており、子ども達もICT機器を活用していますが、それは生活の中での活用であり学校の中で使うことには慣れていないようです。また、先生がネット環境を使って学習するというやり方に十分な準備がまだできていないこともあるかもしれません。もう一つの日本の特徴は学ぶモチベーションが総じて低いことです。

ヨーコ:私も以前仕事で主体的な学習意欲について統計データを集めていたとき、日本の子ども達は学年が上がるにつれてモチベーションが下がっている傾向が如実に現れていて驚きました。学習の難易度があがることと関係しているのでしょうか。

小原:そうかもしれませんね。一つ面白いデータがあります。PISAでは「大人になったら何になりたいか」という質問もするのですが、米国は学習到達度はそれほど高くなくても、STEAM関係の仕事につきたいという子ども達が多いのです。逆に、学習到達度が高い国ではSTEAM関係の仕事につきたいという子どもは相対的に少なかった。学ぶモチベーションは日本に限らずどこの国にも共通する課題ですが、学んでいることが社会にどう関連しているか、どう役立つか分かると難しくても頑張ろうというモチベーションが湧くのではないでしょうか。

ヨーコ:困窮家庭の子ども達に無料で勉強をお手伝いする学習支援のボランティアに関わっているのですが、算数を教えた小学生の子に聞くと、算数以外の4科目はとてもよく分かっていて成績もいいそうです。それってすごいことだよ!大人になればできることを持ち寄ってチームで仕事をするのだから、得意なことが4科目もあるってとてもすごい、と伝えたんです。そうしたら、そんな考え方は聞いたことがなかったようで、ちょっと嬉しそうでした。

5科目全部を満遍なく学習できることをゴールに苦手を克服する、そのためにAIも使って反復学習を効率的にする(アダプティブ・ラーニング)という教育の方向性には違和感を感じています。

小原:でも子どもの良いところを見つけて伸ばす土台は、国際的に見ると日本の先生方にはとてもあると思いますよ。個人的な話ですが、私が住むフランスでは幼稚園(エコール)が就学準備の位置付けになっており、ノートと筆記用具をもって3歳から通園します。はじめて子どもが登園した日、人生で初めてのノートに書かれていた先生のコメントは「もっと上手にできるでしょう」で驚いたことを今でも覚えています。フランスではできたことを認めるというよりは減点方式なのです。

クラスがなく、個人の到達度や発達に応じて1週間の学習計画を作り、一人あるいはグループで勉強して必要な時に先生に聞くという北欧の国のような学校もあります。

ヨーコ:自分で学習計画を作るというのは何歳の話ですか。

小原:小学生ですが、そういう国ほど就学前教育では自分で考えて自分で行動することを教育目標に置いています。

ヨーコ:まさに聞きたかったところです。社会情動的スキルが重要になるこれからの時代において、乳幼児期や就学前教育はどのように捉えていますか。

小原:乳幼児期の学習で最も大事なことは、自分でできた!という達成感や失敗してみる経験、失敗をしながら工夫して乗り越えた経験ではないでしょうか。それがあれば、学ぶモチベーションにもつながります。年齢があがるにつれて、テストやお友達の目などが気になり、失敗しにくくなります。まちのおやこテーブルで大切にしている乳幼児期は、自分でやりたい気持ちが旺盛です。大人目線でそれは危ないからダメ、失敗するからやめておこうとしてせっかくの自立心をつぶしてしまわないようにしたいですね。

就学前教育というと、どうしても学校で勉強するための準備として読み書き能力を先取りすることと思われがちですが、相手を信頼できる力や共感する力などはとても大事な基礎的能力です。5歳児の能力について3カ国で調査したことがあります。参加国はエストニア、イングランド、アメリカです。エストニアは5歳児時点の学力は相対的に高くないですが、集中して物事に取り組む力や共感力が非常に高かったのです。そして、15歳を対象とするPISAのランキングはトップクラスです。逆に、イングランドやアメリカは5歳児の学力は高いのですが、PISAランキングは必ずしも高くない。これらの間に因果関係があるとまではいえませんが、早期教育をすることがその後の学力につながるわけではないことや学力ではない力が後に重要になることは示唆されます。

ヨーコ:5歳時点の能力がその後の学力につながるとしたら、やはり乳幼児期は人生の土台だということを改めて感じます。乳幼児が過ごすのは幼稚園や保育園だけではありませんが、就学前教育において家庭や地域コミュニティの影響についてどのようなことが言えますか。

小原:家庭や地域コミュニティが重要であることは間違いありません。子どもに対する大人の関わり方が、その後の子どもの成長にどのように影響するかについては多くの研究があります。例えば、5歳の時に数の概念を知っていたり、他者と仲良く遊ぶ子どもの親は、(その子が本を読めても読めなくても)本の読み聞かせをする、子どもと会話のキャッチボールをする、幼稚園や保育園の活動に関わる、子どもの学校外での活動に積極的に関わる傾向があります。

どの国でもそうですが、働く親が増えて子どもと思うように時間が取れないですが、限られた時間をこのような活動にあてるのはとても良いと思います。

ヨーコ:親が限られた時間をエビデンスに基づいて大事と分かっていることをして過ごせることはとても大事ですね。まちのおやこテーブルでは、子どもに関わる大事な存在として親以外の大人(まちのおや)にも着目しています。要するに近所のおじちゃん、おばちゃん。親には言えない・できないことでも他人だから言える・できることもありますし、社会経済的に恵まれない家庭では親はそのようなことが大事だと知らなかったり、知っていてもやれない状況にありますから。

小原:小さい時はおうちが世界の全てとなりがちですので、公平性の観点からもコミュニティで子どもを育てることは大切だと思います。5歳の子どもに「大きくなったら何になりたいか?」と聞いた調査があります。社会経済的に恵まれた家庭の子どもはお姫様と答えたり中にはすごく具体的に答える子どももいました。一方、社会経済的に恵まれない家庭の子どもは親や親戚の仕事を答える傾向にありました。つまり、家庭環境によって将来像に対する視野の広さに大きな差があり、それはやがて学習モチベーションにもつながります。

ヨーコ:最後に、今思えば影響を受けたまちのおやのような存在はいましたか。

小原:この質問を一番楽しみにしていました、笑。ヨーコさんからまちのおやの話を以前聞いた時に、私にとってのまちのおやの思い出だったんだ!と合点がいきました。小学校中学年の頃、親が子どもの成長には田舎がいいと考えて茨城県の小さな地区に引っ越ししました。「お姉さん」と呼ばれていた近所のおばちゃんがいたのですが、専業主婦だったお姉さんの家には毎日5人から10人くらいの子どもが集まって、ご飯づくりなどいろんなことをしました。私が刺繍を覚えたのはお姉さんの家です。

お姉さんは子ども達のやってみたいをプロジェクト化することがとても上手でした。ある時、親から捨てられた赤ちゃん猫がいたので、みんなで育てようとなったのです。ここまではありがちな話だと思うのですが、せっかく育てているからこの体験を本にしてみたい!と誰かが言いました。お姉さんが本づくりに関係する大人を呼んできて、あれよあれよという間に本ができあがりました。自分たちで本を作った経験は本当にワクワクしました。本のほかにできることはないかな、というお姉さんの問いかけにみんなで話すうちに劇を作ろう!となりました。せっかく作ったのなら発表しようとなり、お姉さんの家が劇場になりました。人を呼ぶのだからお金を取ろうとカンパを募り、子ども達の次のプロジェクトの資金になりました。親に言えなくてもお姉さんになら言えるという大人が側にいて、色んなチャレンジをして、そのうち親同士も仲良くなって、年齢が異なる子どもとまぜこぜに遊んだあの時間は今思うと自分の原体験でした。

ヨーコ:すごい!絵に描いたようなまちのおやのエピソードを聞かせてもらいました。

小原:今の時代にこのような関係性をどういう形で作るのか、これからのまちのおやこテーブルの活動を楽しみにしています。

ヨーコ:まさにメンバーと対話をしながら考えているところです。今日は貴重なお話をありがとうございました。

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2021-08-09 | Posted in ブログComments Closed 

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