【レポート】探してみよう 自分らしいまちと関わる暮らし方 第1回(20160526開催)
第一回「居心地のいい場所とは?」篠原靖弘さん
初夏を通り越して真夏のような、日差しの強い木曜日。
西国分寺駅にほど近いカフェラクナには、近くは国分寺、遠くは岐阜(!)から、
まちと関わる暮らしに興味を持った人たちが集まりました。
すでに地域とつながった活動をされている方や、子どもと関わる活動をしている方、
新たな場づくりを考えている方。
様々な視点から、今回のテーマである「居心地のいい場所」について考える時間が始まりました。
ルールはシンプル。「結論を出すことを目的としない/人の意見を否定しない」、これだけです。
【まちの人の顔が、“ちょっと”見えるくらいの関係】
お話ししてくださった篠原さんは、現在西国分寺で「まちぐらし不動産」を営みながら、
休日には自宅の一室を開放した図書室、「西国図書室」を開くなど、
まちを拠点に実に自由で独創的な活躍をしています。
まちというものを考えるスタートとして、
篠原さんは「まちぐらし不動産」の「ディスカバリーツアー」の話を挙げました。
不動産屋さんの車で物件を見に行き、住む家決めるという従来の方法とは異なり、
すでにまちに暮らしている人も含めた4、5人で一緒にまちを歩いて回るという、このツアー。
まちを歩く中で、どこに何があって、どんな人がいるのかを少しでも知ってから住む場所を決める。
そんな新しいまちとのつながり方を、篠原さんは提案しています。
「まちの人の顔がちょっと見えるくらいの関わり方が、理想的な距離感」という篠原さん。
その距離感は、西国図書室での人との関わり具合にも表れています。
西国図書室は、本を媒介として自由に人が出入りできる場所。
週に1回(詳しい開催日はFBなどでご確認ください)、篠原さんの自宅を開放しています。
本を持参すればその場にある本を1冊持って行くことができ、
所有者の許可があれば書き込みをすることも可能です。
本を介していろいろな人が集まり、会話したり、本以外のことに発展したり。
また、幾人もの手を渡った本には、いくつもの痕跡が残ります。
そんな、本をツールとしてつながりのきっかけを作る、
程よく力の抜けた試みは今年で4年目になります。
「もしかして、いますれ違った人のカバンにわたしの本が入っているのかもしれない。
そんな妄想ができるようなまちって、いいと思いませんか?」と、篠原さん。
“妄想”という言葉に参加者からは思わず笑いが漏れますが、
篠原さんはひょうひょうとして、頷いていました。
【自由に、まちとつながって暮らす、というあり方】
西国図書室のように、自宅をまちに開くという行為は
「住み開き」(提唱者:アサダワタル氏)という言葉で近年注目されています。
が、その行為自体は決して新しいことではない、と篠原さんは説明します。
「自宅の一部を児童図書室として開く家庭文庫や、
時代を遡れば江戸時代の寺子屋や寺本屋、また昔はどこにでもあった、
縁側だって一種の“住み開き”ですよね」
そう言いながら、篠原さんはスケッチブックに描かれた表を提示しました。
「かつての日本のまちの姿は、左上、共生/不自由に当てはまった。
近代になると、それが右下、孤立/自由に進んできました。
そして今、それを左上(共生/不自由)に「戻そう」とする動きがあるようです。
でも、過去の姿に“戻る”ことが、居心地よさの獲得につながるのでしょうか?
だったら、右上、共生/自由に向かえないか?多くの人が今、
まちとの新たな関わり方、新たな作法を模索しているのではないでしょうか」
自由のある、共生。あたらしいまちの形、
自分の居心地よさを大切にする暮らし方について考える上で、
この座標軸は一つの大きなヒントになりそうです。
【続けることを前提としなくてもいい】
自宅に人がやってきたり、一緒に歩いたり。
そんな話を聞けば、よほど人が好きなのかな、と思ってしまいますが、
実は人と付き合うのが得意というわけではないという、篠原さん。
西国分寺に居を据えたのも、図書室を始めたのも、理想像が先にあったわけではなく、
ご縁と居心地の良さを求めた結果だったといいます。
自分で心地よさを求めていくということは、
状況に応じて「場」の形を変えていく自由もある、ということ。
実際、西国図書室から始まった本を媒介とした試みは、
舞台をまちに置き換えた「国分寺ブックタウンプロジェクト」に発展しています。
「続けることを前提としなくても、いいと思う。
自分にとって価値があったなら、それでいいのでは」
篠原さんのこの言葉に、参加者は新鮮な驚きと共に大きな開放感を得たようでした。
【みんなの想いを聴く、考える】
お話を聞いた後、参加者はそれぞれ心に残った言葉や、
今回のテーマについて浮かんだキーワードを付箋紙に書き、貼りながら想いを話しました。
テーブルの中央に広げた模造紙には、「安心感」「多様性」「距離感」など、
この日の話し全体から浮かび上がるキーワードから、
「話す、聴く場がある」、「仕事をしながら町と関わる」、
「子育てを地域みんながする」、といった、
自身の立場と重ねたときに浮かんできた問いやテーマなどまで、様々なカードが集まりました。
多様な人と接する重要性を考えた人や、
誰もが入りやすい場をつくる難しさを感じている人もいれば、
「逆説のようだけれど、自分の時間を大切にする、ということも大切では」、という意見もありました。
地域とどのようにつながり、居心地よい場をどう作っていくのか。
どうやって居心地よく暮らしていくのか。
様々な視点からの問いと興味を抱えて集まった参加者が、
一つのテーブルで話を聞き、考え、想いを語り合う中で、
自分とまちの理想的な関わり方がうっすらと見えてきたのではないでしょうか。
ここに参加したことがひとつのスタートとなるようなワクワク感と、
それぞれの想いを聴きあう温かさとに満ちた、充実した2時間でした。
(ライター あおきともこ)
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